ギグワーカー、「#自由な働き方の不自由」モンダイ
#自由な働き方の不自由モンダイとは?
ウーバーイーツやタイミーなどのギグワーカーは、正社員のような保障や安定収入がなく、雇用統計にもほとんど反映されないため、怪我や病気で働けなくなった場合も補償は薄い。「自由な働き方」ともてはやされるのと裏腹に、保険や年金、失業時の補償などを考慮すると、その不自由さが見えてくる。
1. 統計に現れない「隠れ失業者」│ギグワーカーは個人事業主として扱われるため、仕事が途切れても失業者数に反映されにくい。その結果、不安定な就労実態が可視化されず、政策や社会的議論が遅れる可能性がある。
2. 社会保障から取り残される│雇用保険や傷病手当金など、会社員向けに設計された制度の多くが適用されず、病気やケガで働けなくなった瞬間に収入が断たれるリスクが高い。
3. 労働格差の固定化│安定した職歴や所得を積みにくいギグワークの働き方は、若年層を中心に将来の選択肢を狭める。
4. 企業リスクの個人転嫁│本来は企業が負担すべき設備投資、社会保険、労務管理のコストが、業務委託という形を通じて個人に押し付けられてしまう。
5. 自由な働き方の不自由さ│時間や場所の自由と引き換えに、収入不安・社会保障の欠如・将来設計の難しさを背負わされる。制度に支えられない自由は、実際の選択肢が制限される不自由な働き方となる。
近年、ギグワークやフリーランスなど、時間や場所に縛られない働き方や、会社に依存しないキャリアが注目され、「自由な働き方」として関心が高まっている。しかし、その“自由”の裏には、雇用や社会保障からこぼれ落ちることで生じる現実的な不自由が潜んでいる。私たちが“自由”と呼んでいるこの働き方は、果たして誰にとって、どこまで自由なのだろうか。
自由な働き方の光と影
スマートフォンひとつで仕事を探し、必要な時間だけ働く。タイミーでの単発アルバイト、ウーバーイーツの配達、クラウドソーシングでのデザインや翻訳業務など、こうした働き方は「ギグワーク」と呼ばれている。企業に雇用されるのではなく、案件ごとに仕事を請け負うのが特徴で、自分の都合に合わせて柔軟に働くことが可能だ。従来の雇用形態にとらわれず、自由な働き方を実現できる選択肢として、ギグワークに参入する人が増加している。

しかし多くの場合、ギグワーカーは、「アルバイト」や「パート」とは異なり、雇用契約を結ばず、個人事業主として仕事を請け負う形をとる。そのため、失業率や公的な就業統計には実態が反映されにくい。仕事が減少したり、事実上労働をしていなくても、個人事業主として事業を継続しているとみなされる限り、失業者としてはカウントされず、統計上は「就業者」に分類される可能性が高い。その中には、収入が安定せず、生活の見通しが立たない人もいるだろう。ギグワークには、こうした不安定な就労実態を見えにくくする構造上の問題がある。
統計が実態を捉えきれなければ、政策対応は後手に回り、問題が社会的に認識されるまでにも時間がかかる。さらに、ギグワーカーは、安定した雇用や体系的なキャリア形成の機会が乏しく、正社員との格差が拡大する傾向にある。特に影響を受けるのは若年層や、副業を組み合わせて生活を成り立たせようとする人々である。職歴を積みにくく、所得は不安定で、金融機関からの評価も得にくい。こうした状況は将来的な社会的流動性を低下させ、努力しても抜け出しにくい構造を強めてしまう。
社会保障から取り残される不安
自由な働き方の裏側にあるのは、社会保障の不十分さという現実だ。ギグワーカーやフリーランスの多くは企業と雇用契約を結ばず、業務委託や個人事業主として働く。その結果、会社員を前提に設計されてきた日本の社会保障制度から、部分的、あるいは完全に外れてしまう。
まず医療保険については、個人事業主は雇用契約を結ばないため、原則として国民健康保険に加入する。しかし、会社員が加入する健康保険組合や協会けんぽとは保障内容に大きな違いがある。たとえば、会社員であれば病気やけがで働けなくなった場合に支給される「傷病手当金」は、国民健康保険には原則として存在しない。つまり、収入を生む労働が止まった瞬間、生活を支える現金給付が途絶えてしまうのだ。
労災保険も同様である。本来、労災保険は雇用されて働く労働者を守る制度であり、個人事業主は原則として対象外とされる。配達中の事故や業務中のけがといった明らかに「仕事に起因するリスク」であっても、自動的に補償されるわけではない。一定の職種については「特別加入制度」が用意されているものの、加入手続きは自己責任で行う必要があり、保険料も全額自己負担となる。制度の存在自体が十分に知られていないこともあり、実際には未加入のまま働いている人も少なくない。
雇用保険も、個人事業主は対象外だ。仕事がなくなっても失業給付は支給されず、景気変動やプラットフォーム側の方針変更によって仕事量が激減しても、公的な所得補償は用意されていない。これは、ギグワーカーが「失業」という概念から制度的に切り離されていることを意味する。
そこから浮かび上がるのは、ギグワーカーが病気やけが、あるいは仕事の減少といった事態に直面した際、生活を支える安全網が極めて脆弱であるという現実だ。会社員であれば複数の制度に支えられる局面でも、ギグワーカーの場合、その多くを自助努力や貯蓄に頼らざるを得ない。また特別加入制度や任意保険が用意されていても、情報へのアクセスや手続きの煩雑さ、費用負担の重さが障壁となり、結果としてセーフティネットの網目はさらに粗くなっていく。
傷病手当金: 業務外の病気やけがで働けず、給与が支払われない場合の生活保障。標準報酬日額の約3分の2を最長1年6か月給付。会社員が加入する健康保険(協会けんぽ・組合健保)が対象であり、国民健康保険には原則として制度なし。フリーランス・ギグワーカーは対象外。
労災保険: 仕事中や通勤中の事故・けが・病気に対する補償。医療費全額、休業補償、障害・遺族給付などを給付。原則は雇用労働者向け。ギグワーカーは特別加入制度を利用すれば対象となる場合があるが、任意加入で保険料も自己負担となる。
雇用保険: 失業時や育児・介護休業時の所得保障と再就職支援。基本手当(失業給付)、育児休業給付などを給付。雇用関係を前提とした制度のため、業務委託が中心のギグワーカーは対象外。

厚生労働省 (2024) 『フリーランス・ギグワーカーの社会保険の適用の在り方について』によると、雇用保険への加入を希望する個人事業主が多数いることが分かる
企業にとって都合がいい労働者
表面的には「自由」に見えるギグワークだが、その実態を別角度から見ていくと、多くのコストが企業から個人へと転嫁されていることが分かる。
まず、仕事を始める段階から、ギグワーカーは一定の初期投資を求められる。日本で代表的なフードデリバリーの場合、自転車やバイク、ヘルメット、配達用バッグ、防寒具や雨具といった装備は原則として自己負担だ。単発アルバイトであっても、スマートフォンや通信環境がなければ仕事にアクセスできない。働くために必要な道具や環境を、企業が用意することはほとんどない。
また、こうした負担は一度きりではない。車両の整備費や修理代、消耗品の買い替え、通信費など、働き続ける限り継続的なコストが発生する。会社員であれば業務に伴う経費として処理されるような支出が、ギグワーカーの場合はすべて自己負担となり、報酬の額面以上に実質的な手取りを圧迫していく。
これらが可能になるのも、ギグワーカーが雇用契約ではなく業務委託として扱われているからだ。企業側は雇用保険や社会保険、通勤費、福利厚生といった固定的な人件費を負担する必要がない。仕事量が減れば発注を止めるだけでよく、人件費を変動費として扱える点は、経営上の大きなメリットとなる。
労働時間の管理や配置調整といった責任も曖昧になりやすい。繁忙期だけ人手を集め、閑散期には契約を切ることができるため、企業は需要変動のリスクをほぼ個人に押し付ける形になる。
このように、ギグワークは働く側に「自由」を与える仕組みとして語られる一方で、企業にとっては人件費やリスクを抑え、柔軟に労働力を調達できる都合のよい形態でもある。その結果、設備投資や収入変動のリスクをはじめとする多くの負担を個人が引き受ける非対称な関係が、公然と成り立っている。
“自由”な働き方に潜む“不自由”
ギグワークの広がりは、働く時間や場所を自分で選べるという点で、確かに個人の選択肢を広げてきた。従来の正社員モデルに適応しづらかった人々にとって、融通の利く働き方であることも事実だ。しかし、その「自由」は、必ずしも安定や安心と結びついてはいない。
ギグワーカーは、雇用契約から切り離されることで、社会保障や労働法制の多くからも距離を置かれる。病気やけがで働けなくなったとき、仕事が急に減ったとき、会社員であれば複数の制度が下支えする場面でも、ギグワーカーの場合は個人の貯蓄や自己責任に委ねられることが多い。自由であるがゆえに、守られにくい状況が生まれている。
こうした問題は個人にとどまらず、収入の不安定な働き手が増えれば、景気全体にも影響を及ぼし得る。また、将来的には生活保護など別の形で公的支出が増える可能性もある。
表面的な自由の裏で、どれほどの不安定さや負担が生まれているのか。労働市場の柔軟化と同時に、社会全体のリスクを静かに押し広げるギグワークの拡大は、「自由な働き方」という言葉そのものの意味を、あらためて問い直すことを私たちに迫っている。