「#サイレント閉館」モンダイ。人知れず消えるミュージアムと共に人類が失うモノ
#サイレント閉館モンダイとは?
毎年、数々の美術館や博物館が開館・リニューアルオープンする一方で、閉館するミュージアムも後を断たない。閉館が話題になり周知されるケースがある一方で、人知れず閉じるミュージアムもある。実は人知れず閉まる時、そこにはある種の問題が起こりがちだという。その状態を「サイレント閉館」と名づけ、潜む問題を指摘し、解決策を探る人がいる。その問題点とは?
1. 博物館・美術館閉館後の“知られざる問題”│博物館・美術館(以下、両者をまとめてミュージアム)閉館後、収蔵品はどうなり、誰が管理するのか。
2. 「閉館ミュージアムまとめ」はない│日本に初めてミュージアムが誕生してから現在まで、いくつものミュージアムが生まれては消えていった。閉館したミュージアムを知ろうとしても、網羅したリストは見つからない。
3. インターネット上の情報は容易に失われていく│ネットは情報を知るための万能ツールのように思われがちだが、全ての情報がネットに出ているわけではなく、また運営会社の撤退で消える情報もある。ネット上の情報は簡単に失われていく。
4. 消える美術品│閉館したとある私立ミュージアムでは、収蔵品が散逸し行方不明になってしまった。
5. 閉館ミュージアムの“宝”を守れ!│閉館はニーズがなかったから? 「サイレント閉館」提唱者が問題意識を広めようとする理由。
ミュージアムの閉館といえば、ピカソやモネなどを所蔵する『DIC川村記念美術館』(千葉県佐倉市)が2025年3月、経営上の問題でクローズしたことが話題になった(東京・六本木へ規模を縮小して移転する予定)。また昭和レトロな品々を揃えた『出雲崎レトロミュージアム』は、入館した子どもによる展示品の破損破壊が相次いだことから2026年2月1日に閉館。ネットで話題を呼んだ。こちらは引き継いでくれる企業を募集している。実は閉館が話題になるのは一部でしかなく、寂しくクローズするミュージアムも多い。
ミュージアム閉館後の“知られざる問題”
閉館がニュースになり、最後の最後に注目度が激上がりして惜しむ人たちが殺到し、“閉館情報が共有された”ミュージアムがある一方で、ひっそりとクローズし、以後も全く触れられないケースもある。「実はそこには知られざる問題があるんです」と指摘するのは、一般社団法人路上博物館の理事・齋藤和輝さん。こうした「誰にも知られずにひっそり閉館する状態」を「サイレント閉館」と名づけ、そこに潜む問題を指摘しながら解決を目指している。
齋藤さんはこう言う。
「公的、私的な施設とも、閉館で発生する大きな問題のひとつは、そこにあった収蔵品にアクセスする術がなくなることです。ミュージアムには1館あたり平均3万2000点の資料があります。我々の調べで2023年は22件がサイレント閉館していたことがわかりました。単純に計算すると約70万点の資料を観覧する機会を失ったことになります」

サイレント閉館する施設は、資料が引き継がれないケースもある。そうなると、そこにあった収蔵品、「未来に残すべき知」に二度とお目にかかれなくなる可能性が出てくる。そればかりか、齋藤さんは、もうひとつの大きな問題を明かす。
「閉館によって、貴重な資料が紛失、散逸することがあるんです」
紛失は、廃棄、盗難などのケースも含む。売却され、その先で保存されているならまだマシではあるが、いずれにせよその資料が再び人前に現れることは期待できない。
ミュージアムとは、多くの人にとって貴重な資料との数少ない接点である。サイレント閉館によってその接点が無くなるばかりか、収蔵品の行方がわからなくなるケースが実際にあるというのだ。
「閉館ミュージアムまとめ」はない
齋藤さんがミュージアムの閉館を調べていく中で、驚いたことがあった。
「わたし達は博物館、美術館だけでなく、資料館や動物園なども含めてミュージアムと考え、閉館に関する情報を集めました。早稲田大学の学生さんを中心としたサークルやボランティアの方々に手伝ってもらいながら、まずはネットニュースや公式情報を検索し、出てきたものを一覧にしてまとめるということをやったんです。その過程でわかったのは、国、民間とも閉館状況を観測している主体が無いんですよ」
ミュージアムの閉館について、先行してデータを取り続けている人や団体が見つからなかったのだ。
インターネット上の情報は容易に失われていく
「全ての情報がネットに出ているわけではないから、検索で引っかからないのもあります。地方紙に載っていてもネットにあげるとは限らないし、運営会社の撤退で消える情報もあります。インターネット上の情報って容易に失われていくんです。検索して見つけられたのは、ここ10数年の狭い範囲だけです。『サイレント閉館が進んでいるかも』と考えて調べていたら、そもそも『閉館に気付けない状況』にあることがわかりました」
世間が閉館に気づかないということは、数多の資料がどのように処分されていようと、知る由もない、ということになる。
なお、閉館調査の結果は、2024年10月に「ミュージアムの『サイレント閉館』が3年で2倍に」と題して路上博物館のサイトで発表している。
リストの備考に「多くの作品は散逸し個々の所在は不明」
齋藤さんの言葉を元に、Googleで「閉館 美術館 リスト」と検索すると、東京・神田神保町の美学校が「2015.1.19現在」として出した「閉館した美術館・美術展示施設」が真っ先に表示される。そしてどうやらこれがGoogle検索で見つかるネット上の最古の閉館リストのようだ。
このリストの中でもっとも古い閉館情報は、1991年閉館の『高現代美術館』(1988年開館、東京・表参道)。1991年以前を含めこのリストから漏れている閉館情報も当然あるが、それを探し当てるには、日本各地の図書館などを巡って古い新聞・雑誌をしらみ潰しに探すしかなく、かなりの労力を要する。
そしてこのリストを見ると、まさに齋藤さんが2つ目に指摘した問題が記されていた。1991年に開館し、2001年6月に閉館した「目黒雅叙園美術館」。備考の欄には「多くの作品は散逸し個々の所在は不明」とある。そう、収蔵品の行方がわからなくなっているのだ。
小さなミュージアムにも貴重で重要な資料は山のようにある
私的なミュージアムにも、規模の大小に関わらず貴重な収蔵品がある。
齋藤さんは小さなミュージアムも大切にしたいとし、その理由を鳥取県のある「史料館」を例に出しながらこう語る。
「世の中には、文化庁の登録博物館にも載っていないような小規模なミュージアムもあり、そこにも貴重なコレクションがあります。例えば鳥取県境港市の『海とくらしの史料館』。ここには世界有数の魚の剥製コレクションがあります。これらの剥製は熟練した技術者が作ったものですが、現代にその技術は継承されておらずオーパーツのようになっています。こうした貴重なコレクションを持つ小さなミュージアムは全国に存在しています」
資料の貴重性は、施設の大きさで測れるモノではない。とはいえ、小さいミュージアムはサイレント閉館になりやすい傾向がある。「規模の大小に関わらず、ミュージアム全般を対象に資料を守る取り組みをすべきだと考えています」。
ミュージアムが閉館する時、「世の中が求めていないから」という声が上がるのは当然ではある。世間からすれば、消えるべくして消えた単なる“負け組”と認識されることもあるだあろう。
しかし齋藤さんは、あえて閉館、中でも「サイレント閉館」に注目した理由をこう語っている
「(人知れず閉館した)ミュージアムにも貴重で重要な資料は山のようにあり、後になって資料の重要性が増すことも往々にしてあります。つまり、サイレント閉館は今ここにいる我々だけの問題ではなく、50年後、100年後の人々にとっての問題でもあるんです。だから今の尺度で資料の価値を判断してはいけないと思っています。今はなんとも思われていなくても100年後に価値が出る可能性も全然ありますから。そして一度散逸し失われた資料は、二度と手に入りません」と、未来に資料を残す大切さを語る。
さらにこう続ける。
「現状必要とされているのは、公的私的、規模の大小に関わらず、ミュージアム全般について、個々の『点』ではなく、社会全体の仕組みとして『面』の取り組みを行うことだと思います」
そこにある貴重な資料を守り、未来に残すためにも「サイレント閉館」を取りこぼすことなく把握し、収蔵品の行方を知る仕組みを作ることはできないか。私たちが閉館に気づかないことは、未来の「知」への責任を投げ捨てているのと同じことなのだから。