「#時間差の介護リスク」モンダイ。20年後のキャリアと経済を揺るがす、晩産化による介護離職
#時間差の介護リスクモンダイとは?
働きながら親の介護をするも両立の限界により“介護離職”する働き盛りは、最新データで10万6000人にのぼる。介護休業制度は整備されているものの利用率は低く、介護は依然として家庭内で担うものであり、2030年には経済損失が9兆円を超える試算もある。しかし、モンダイは現在だけにとどまらない。晩産化の進行により第一子出産が後ろ倒しになったことで、いまの小学生~高校生がキャリア形成期と親の介護期が重なる“介護インパクト世代”の構造が拡大しつつある。
1.晩産化で“親の介護期”と“子のキャリア期”が重なる世代│第一子出産が後ろ倒しになるほど、子が20~30代でキャリア形成期に差しかかるころに親は後期高齢者の年齢帯に入る。こうした家庭は今後、確実に広がっていく。
2.キャリア形成期の20~30代で、親は後期高齢者へ到達│成人した子が就職・転職・昇進などに向き合う時期に、親は75〜85歳へ。キャリアの伸びしろがもっとも大きい年代と、介護開始期が重なる構造が今後さらに広がる。
3.育児×介護ではなく、キャリア×結婚適齢期×介護の三重衝突│従来の“ダブルケア”とは異なり、働き方・結婚・キャリア形成の重要局面と親介護が同時期に到来する。複数の人生課題が重なることで離職リスクが急上昇する。
4.働き方・所得・税収に波及する“未来の構造リスク”│個人の離職・収入低下だけでなく、企業の生産性、税収、社会保障費など国全体の基盤に影響が及ぶ。将来の経済環境にも直結する課題だ。
5.現在の「ダブルケア世代」が20年後に拡大するのが「介護インパクト世代」│今は30〜40代の一部に集中している“育児×介護の同時発生”が、晩産化の進行により次世代に広く転写される。20年後には、より大規模で深刻なかたちで表面化する。
晩産化が変えた“親と子の時間軸”
日本では長く「晩婚化が少子化の要因」と語られてきたが、平均初婚年齢は2015年前後をピークに横ばいとなり、近年は微減傾向だ。ところが、晩婚化の鈍化とは逆に、初産年齢は上がり続けている。第一子出産の平均年齢は30歳を超え、医療の進歩もあり40歳前後の出産も珍しい話ではない。変化しているのは“婚姻”ではなく“出産”のタイミングだ。
晩産化が進むことで懸念されるのは、親の介護開始年齢に子どものキャリア形成期が重なりやすいということだ。

この構造は、現在の「ダブルケア(育児×介護)」の実態からすでに兆候が表れている。2016年調査の内閣府男女共同参画局による『育児と介護のダブルケアの実態に関する調査』では、ダブルケアを行う推計人数は女性16.8万人、男性8.5万人。平均年齢は、男女とも働き盛りの40歳前後が全体の8割を占めた。
その8年後、こども家庭庁の加藤大臣記者会見(当時・2024年1月23日)で、「毎日新聞が就業構造基本調査のオーダーメイド集計を依頼したところ、少なくとも約29万人が未就学児を育てながら、家族の介護を担い、ダブルケアの状態にあることが分かりました。30~40代の働く世代が8割を占めており、離職を迫られている人もいます」という質疑応答の記録が残っている。4万人と微増だが、 晩産化によって育児と介護が同時期に重なる家庭が着実に増えているということだ。

しかし、この現象はあくまで“現在の40代”の話に過ぎない。本稿の焦点は、20年後にこの構造がさらに大規模に起きる可能性があるという点にある。晩産化が定着した現在、子が成人する20年後に親は60歳前後だが、その後10〜15年で介護期に入る家庭が多い。 つまり、子がキャリア形成のピークを迎えるころ、親は75〜85歳の後期高齢者に到達し、 “キャリア形成×結婚適齢期×介護” の三重衝突となる。
制度が整っても、介護は家庭に押し戻される構造
2024年5月、改正育児・介護休業法が公布され、2025年4月には「介護離職防止」に向けた内容が明確化された。企業の説明責任や相談機会の確保など制度整備は進んだが、実際の介護負担が軽減したとはいいがたい。

※出典の和暦表記を、西暦に換算して作成。
『令和6年育児・介護休業法改正について【介護関係を中心に】』(厚生労働省)によると、介護をしながら働く人は2022年で約364万6000人。2012年の調査から比べると70万人以上も増加しており、家族介護の担い手は確実に増えている。その一方で、介護・看護を理由とする離職者は約10万6000人に達し、男性の離職も増加傾向。制度があるにもかかわらず、離職が減らない状況が続いている。
制度が機能していない理由のひとつが、“利用率の低さ”だ。『令和4年就業構造基本調査』(総務省)では、介護休業・介護休暇・短時間勤務などを含む介護休業等制度の利用率は11.6%にとどまり、そのうち「介護休業」を取得した人はわずか1.6%(5万1000人)。『令和6年度雇用均等基本調査』(厚生労働省)では、介護休業取得者がいた事業所の割合は3.6%と極めて低い。
さらに、介護は“短期休業で解決する問題ではない”という構造も大きい。要介護認定の申請、ケアマネ探し、サービスの調整、入退院手続き、自宅の環境整備などを数週間では終わらせるのは難しく、介護が本格化する前にすでに仕事と両立が破綻しはじめる。いわば、介護休業制度が想定する「数か月の休業」では現実に追いつかない。
日本の介護の8〜9割は家族が担っているのが実情だ。親が遠方に住む、きょうだいがいない、未婚・共働きが増えているなどの条件が重なると、担い手は“1名に集中”する。制度が整っていても、介護が発生した瞬間に家庭へ押し戻される構造は変わっていない。このことが、後述する「介護インパクト世代」への伏線となる。
キャリアと介護が衝突する「介護インパクト世代」の困惑
20年後、いまの小学生~高校生が社会に出てキャリアの中心に立つ20代後半~30代になれば、晩産化の進行で親は75~85歳の後期高齢者になる。子のキャリア形成期と親の介護期が、ほぼ確実に重なるだろう。
キャリア形成・結婚と出産適齢期・親の介護という三つの局面が、人生の基盤作りの時期に同時に押し寄せる世代。それが「介護インパクト世代」だ。従来の“育児×介護”のダブルケアとは異なり、仕事・人生・家族構造のすべてが同じタイミングで揺れる新しい局面に置かれる。こうした状況に耐えられず介護離職を選べば、キャリアの中断は重くのしかかり、正社員に戻れない可能性もある。離職は「個人の判断」ではなく、「構造が生む必然」になってしまう。
これが大規模に発生すれば、社会的損失は計り知れない。「経済産業省における介護分野の取組について」(2024年3月:経済産業省ヘルスケア産業課)によれば、団塊ジュニア世代が親の介護に直面する2030年時点の介護による経済損失は約9.1兆円と試算されている。ただし、これは現在の40〜60代が中心のデータだ。晩産化した子どもたちが一斉に介護に直面する20年後には、損失規模が拡大する可能性が高い。

さらに、いまの子ども世代には以下のリスクも高まる。
・ひとりっ子世帯の増加による「介護の単独化」
・都市部への人口集中で“遠距離介護”が常態化
・未婚率の上昇
・非正規雇用やキャリア形成の遅れによる生涯所得格差
・税収減・社会保障費の増大
・出生率のさらなる低下
これらは単なる個人の事情ではなく、社会構造そのものの損失である。
20年後を見すえれば、介護を家庭が抱えるモデルを維持することは不可能だ。介護を“社会で分散するモデル”に転換できなければ、日本は労働力人口の縮小と家族機能の弱体化という二重の危機を迎えることになる。介護インパクト世代とは、晩産化の副作用によって生まれる“時間差の介護リスク”であり、日本の未来の労働・経済を揺るがす構造問題そのものといえそうだ。