子育ての体罰に関する法律が変わったことが親に知られていない――「#子育てギャップ」モンダイ
#子育てギャップモンダイとは?
2020年に子育てに関するある法律が改正され、「しつけ」のための体罰は禁じられた。しかし、この法改正は親世代に十分浸透しているとは言い難い。そこで、法改正の認知度と、親たちの体罰に対する考え方・実態をアンケート調査した。
1.法改正が周知されていない│「しつけ」を理由に親から子へ体罰を加えることは完全に禁じられた。しかしこのことが知られていない。
2.法改正で禁じられた体罰とは?│大人が子どもの心身の成長と人格形成に悪い影響を与えないよう、法律は変わってきた。親から子へのこんな行為も“アウト”
3.アンケート結果から見えた親の苦悩│「体罰を加えたことがない」と答えた親も迷っている。
5月25日、プロ野球読売ジャイアンツの阿部慎之助元監督が18歳長女への暴行容疑で現行犯逮捕された(翌26日未明に釈放され、起訴猶予処分)。この一件をきっかけにSNSなどで話題になったのが、親から子への「しつけ」の問題。「しつけ」のためなら親は子を叩いていいのか、否か。では、法律で体罰が禁じられた今、その変化は親たちにどこまで浸透し、子育ての現場ではどう受け止められているのだろうか。
2020年、2022年の法改正で体罰は禁じられた
2020年、たとえ「しつけ」のためであろうと、子どもの身体に苦痛や不快感を与える行為は許されないと決めた法が施行された。児童虐待防止法および児童福祉法が改正され、親から子への体罰が法的に禁止されたのだ。
さらに、2022年には旧民法822条が改正され、親に認められていた「懲戒権」が削除された。旧822条では「親権を行う者は(中略)監護及び教育に必要な範囲内で、その子を懲戒することができる」とあり、しつけのために体罰を加えることが容認されてきた。児童虐待を行なった親などが、「しつけのため」と虐待を正当化することができたわけだ。
こうした悪用を防ぐために「懲戒権」の規定は法律から削除され、新たに民法821条で「体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない」と定められた。このように2020年、2022年の法改正で、親から子どもへの体罰は法的に完全に禁じられた。
「どんなに軽いものであっても体罰に該当し、法律で禁止」
具体的に見てみると、厚生労働省が2020年2月に出した文書「体罰等によらない子育てのために」によれば、「たとえしつけのためだと親が思っても、身体に、何らかの苦痛を引き起こし、又は不快感を意図的にもたらす行為(罰)である場合は、どんなに軽いものであっても体罰に該当し、法律で禁止されます」といい、「言葉で3回注意したけど言うことを聞かないので、頬を叩いた」「大切なものにいたずらをしたので、長時間正座をさせた」「友達を殴ってケガをさせたので、同じように子どもを殴った」「宿題をしなかったので、夕ご飯を与えなかった」といった、昭和世代にとっては「あるある」だったような行為は全て“アウト”となる。
また子どもに対して「ことばによる脅かし、脅迫」「無視したり、拒否的な態度を示す」「心を傷つけることを繰り返し言う」「配偶者やその他の家族などに対する暴力や暴言」などは虐待と定義されている。
法律は周知されているか?アンケートで判明した意外な結果
大人が子どもの心身の成長と人格形成に悪い影響を与えないよう、法律は着々と変わってきた。だが、こうした変化は広く周知されているのだろうか。
狭い範囲ではあるが、保育園のママ6人と話したところ、5人がこの法改正を知らないか、法律自体を知らなかった。そこでこの2つの法改正について、どれくらい知られているかをアンケート調査した。
調査したのは6月半ば。対象は全国の子どもがいる20代〜50代男女1000人(男性500/女性500)。
まずQ1「2020年の法改正によって親から子への体罰が許されないと法的に決められたことを知っていますか?」という質問に対し、「知っていた」と答えたのは514人(男性273人/女性241人)。「知らなかった」は486人(男性227人/女性259人)。ほぼ半数の親がこの法改正を知らなかった。
続いてQ2では2022年に「懲戒権」が民法から削除されたことを知っているかを聞いた。
知っていた親は294人(男性183人/女性111人)で、全体の29.4%だったのに対し、知らなかった人が318人(男性145人/女性173人)で31.8%。そもそも「懲戒権」を知らなかった人が最も多く、388人(男性172人/女性216人)で38.8%を占めた。
親から子へしつけで体罰を与えることが法的に禁じられて6年が経ち、体罰を行う法的根拠が消えて4年が過ぎた。しかし子への体罰が法的に許されなくなったことを知らない親がほぼ半数いるのが現実だ。法改正が周知されているとは言い難い状態が浮かび上がってきた。
子育て中の親は法改正をどう受け止めている?
さらに、上記のアンケートに答えた親から300人抽出し、親から子どもへの体罰を巡る考え方、そして体罰の経験の有無についてもアンケート調査した。法律で体罰が禁止されたことを知った上で、その変化をどう受け止めているのか。家庭でのしつけの実態はどうなのか。
調査したのは6月半ば。対象は全国の子どもがいる20代〜50代男女300人(男性176人/女性124人)。
Q1は「子どもを育てる上で、体罰は必要だと思いますか?」という根源的な問題について。「必要ない」と答えた親は80人(男性47人/女性33人,26.67%)、「基本的には必要ない」が114人(男性59人/女性55人,38%)で、必要ない派がほぼ3分の2を占めた。
一方、「場合によっては必要」と考える親は72人(男性47人/女性25,24%)、「必要だと思う」は34人(男性23人/女性11人,11.33%)。条件をつけずに「体罰は必要」だと考える人は全体の11%ほどだった。

昭和時代は親も教師も当たり前のように子どもを叩いていたが、昭和が終わって40年近くが経ち、親世代の考え方は大きく変化したようだ。
続いてQ2では「過去4年間、しつけのために子どもへ体罰を加えたことはありますか?」と実態を聞いた。こちらも「ない」が3分の2を占めている。

回答者の年代と性別を見てみると、意外なことに50代は男女とも「ない」と答えた人が8割以上いる。50代は昭和42年〜昭和51年生まれで、その親の代まで含めてどっぷり昭和教育につかっていることを考えると、少しばかり意外な結果だ。
年代・性別別に見てみると、「ある」と回答した人の割合が最も多いのが40代女性(ある42.11%、ない57.89%)。以下、30代男性(ある34.48%、ない58.62%、答えたくない6.9%)、20代女性(ある30.43%、ない56.52%、答えたくない13.04%)、20代男性(ある30.23%、ない55.81%、答えたくない13.95%)と続く。若い世代の方が体罰を加えた経験がある割合が高い。
Q3では「親による体罰が法律で禁止されていることについて」どう考えているかを聞いた。 「良い影響がある」と言い切る人は全体の22%。「どちらかといえば良い影響」と迷いもありながら良いと考える人が30.67%。「どちらかといえば子育てがしづらくなる」と懸念している人が13.33%いた。

体罰を加えたことがない親の迷い
さらにQ2で「過去4年間しつけのために子どもへ体罰を加えた」ことが「ない」と答えた198人のQ3での回答を見ると、体罰は与えないが、それでいいのか迷いを持つ親もいることがわかった。

体罰を与えない親のうち23人(ないを選んだ人の11.6%)が「どちらかといえば子育てがしづらくなる」を選択している。「どちらともいえない」を選択した人は47人(同23.7%)、「わからない」を選択した人は11人(同5.6%)いて、体罰を加えたことが「ない」親の4割が、それが絶対的に正しいのか、疑問を持っているわけだ。

一方、体罰を加えたことが「ある」と答えた人のQ3での回答を見ると、体罰が法律で禁止されたことが「子育てに良い影響がある」と答えたのは10人(あるを選んだ人の12.3%)。「どちらかといえば良い影響がある」と答えたのは25人(同30.9%)と、体罰を加えたことがあっても、4割強の人は体罰禁止を良いことと捉えていることがわかった。

アンケート結果は、意外な事実を浮かび上がらせている。
法律通りに体罰をしていない親の4割が体罰禁止を全面的に支持しているわけではなく、体罰を加えた経験のある親の4割が体罰禁止を良いことと考えているのだ。 明らかに矛盾するこの数字こそ、子育ての難しさ、そして親の苦悩をよく物語っているのだろう。