「#マネキンと呼び続ける」モンダイ
#マネキンと呼び続けるモンダイとは?
「マネキン」と呼ばれてきた店頭販売の仕事は、単なる人材派遣や販売応援ではない。人が介在することで、商品を知り、試し、自分に合うかを判断し、納得して選ぶという価値を創出しているのだ。そうした「理解・体験・納得・信頼」が生まれる接点をHuman Touchpointとし、それらを生み出す市場をヒューマンタッチポイント市場と捉え直してみた。
1.「マネキン」は約100年前に生まれた市場概念|本来は商品を人間によって“生きた体験”へ変える新しい販売手法だったが、長い年月の中で「販売人材」「職業紹介」という市場認識へ収斂した。
2.人がいることで、商品との接点が生まれている|販売員がいなければ、その商品を試したり詳しく知ろうとしたりしなかったと考える人は38.8%。Human Touchpointは、購入の後押しだけでなく、商品との出会いそのものを生んでいる。
3.人が生んでいるのは「説明」ではない|Human Touchpointによって「自分に合う」「使う姿が想像できる」「納得できる」「信頼できる」という意味の変化が起きている。
4.メーカー・小売・生活者の“三方よし”が存在する|メーカーには商品理解と新規顧客、小売には接客補完と売場の賑わい、生活者には理解・体験・納得・安心が生まれる。
5.AIが進むほど、Human Touchpointはむしろ希少になる|情報整理・比較はAIへ。一方、身体的な体験や適合判断、微妙な不安、最後の納得は人に残る可能性がある。
ECやSNS、AIの普及で、商品情報はいくらでも手に入る時代になった。それでも店頭から「人」は消えていない。人が声をかけ、試し、確かめることで、商品との出会いや納得が生まれている。販売員という「人手」ではなく、人が介在することで生まれる価値から、市場を再定義する。
「マネキン」という100年前の新産業
「マネキン」と聞くと、服を着せる人形を思い浮かべる人も多いだろう。しかし、日本にはもうひとつの「マネキン」がある。百貨店やスーパー、専門店などで商品を説明し、販売する人たちだ。高島屋史料館によれば、1928年の大礼記念国産振興東京博覧会で「日本初のマネキンガール」が話題になった。公益社団法人 全日本マネキン紹介事業協会も、1929年を「新職業としてマネキン誕生」と位置づけている。当時のマネキンガールは、衣服を実際に身につけ、歩き、振る舞い、「この服を人間が着ると、こう見える」と生きた姿で見せた。現代でいえば、ファッショモデルである。
マネキンガール史の研究でも、1928年前後には、生身の女性が衣装を着て店内や展示空間を歩きながら商品の魅力を伝える宣伝手法が登場している(共立女子大学リポジトリより)。つまり、マネキンの原点は、「人を使って物を売る」ことではない。むしろ、人間が介在することで、止まっていた商品を“体験”へ変えることだったのではないだろうか。
服という「物」が「自分が着たらどうなるだろう」という想像へ変わる。商品そのものは変わっていない。変わったのは、商品の意味である。約100年前、マネキンはかなり革新的な“メディア”だったのかもしれない。
100年かけて、「マネキンの価値」が「人材」に変わった
その後、マネキンはひとつの職業として制度化される。1957年には東京都マネキン斡旋業組合が設立され、全国組織へ発展。現在の公益社団法人 全日本マネキン紹介事業協会は、マネキンとして働く人の地位向上、雇用管理、福祉、マネキン紹介所の健全な発展などを目的としている。正会員数は現在36。(全日本マネキン紹介事業協会)。もちろん、同法人は働く人を守る組織として重要な役割を果たしてきた。ただ、市場という視点で見ると、ここにひとつの変化が起きたともいえる。
モダン都市へと変わる東京で生まれた華やかな女性の職業のひとつで、本来“人が介在することで商品価値を変える仕事”だったものが、いつの間にか、販売する人を紹介する仕事として定義されるようになった。すると、市場を見る単位も変わる。
何人出せるか。全国何店舗へ派遣できるか。ひとり一日いくらか。欠員なく人を確保できるか。一日に何個売ったか。
「マネキン市場」と呼んだ瞬間、市場の中心に置かれるのは、人と人の接触であるHuman Touchpointではなく、人的資源のHuman Resourceになった。人が生み出している価値より、人そのものが商品になったのである。
そして、2020年、この産業に大きな転機が訪れる。人と人の接触が極端に回避された、新型コロナウイルスの蔓延である。試食、試飲、対面接客。実演販売など人と人が近づくことで成立していた活動が、一斉に止まった。それまで当たり前に存在していた売場の人が、一度、消えたのだ。一見すれば、「コロナ禍を機に、マネキンという古い市場がデジタル化によって終わった」ようにも見えるが、その後に興味深いことが起きている。
推奨販売人材大手インパクトホールディングス傘下のインパクトフィールドでは、推奨販売の月間稼働数が2026年3月に8,000件を突破。コロナ禍以前のデータは残っておらず単純に比較はできないが、驚異的なV字回復である。同社自身も、その背景について、ECが浸透する一方で、専門スタッフとの対話や商品を直接試す体験価値が再評価されていると説明している。
これは単なる「コロナ前に戻った」という話なのだろうか。それとも、人が消えたからこそ、人がいたことで何が起きていたのかが見え始めたのだろうか。
AI時代に見えてきた「ヒューマンタッチポイント市場」
ECサイト、SNSの台頭による口コミの拡散、AIにより、商品情報はスマホひとつで、いつでも気軽に誰でも手に入れられるようになった。ところが、そんな現代でも店頭で客は店員に相談し、試し、納得してから購入する行動はなくなっていない。では、企業がコストをかけて手配しているのは、本当に「販売員」という人手だけなのだろうか。
ニッポンモンダイでは、人が介在することで生まれる「理解・体験・納得・信頼」という価値を生み出すリアルな接点をHuman Touchpointとして、従来の「マネキン市場」を別の角度から見直してみたい。そのために編集部では、推奨販売の実態について全国3000人を対象に店頭での実演販売との接触状況を調査。さらに、過去1年間に販売員から商品を勧められたり、説明・実演を受けたりして、試食・試飲・試用をした経験者600人に本調査を行った。
そこから見えてきたのは、「情報を持った人が最後に販売員へ確認しに行く」という姿だけではなかった。むしろ、人がいたから商品を知り、人が声をかけたから試し、そこから商品の意味が変わり始める。そんなHuman Touchpointの、もうひとつの姿だった。
店頭の実演販売を「見た」人は約半数
ニッポンモンダイの独自アンケートとして、まず全国3000人に、過去1年間にショッピングモール、百貨店・デパート、スーパーマーケット、家電量販店、ドラッグストア、ホームセンターなどで、実演販売や商品案内を見かけた経験を聞いた。

最も多かったのは「食品・飲料の試食・試飲」で49.6%。ほぼ2人にひとりが目にしている。続いて、「家電・調理器具などの実演・試用」11.3%、「化粧品・美容商品の試用・説明」11.3%、「日用品・生活用品の実演・説明」10.2%、「健康用品などの体験・説明」8.7%だった。
一方、「見かけたことはない」は34.3%、「覚えていない」は10.3%だった。誰もが実演販売を明確に認識しているわけではないものの、食品・飲料を中心に、店頭で人が商品を伝える場面は一定数存在している。

そして、何らかの販売・案内を見かけた1662人に、実際に販売員から商品を勧められたり、説明・実演を受けたり、試食・試飲・試用をした経験を聞くと、「何度もある」20.2%、「2〜3回ある」39.4%、「1回ある」8.4%であった。合わせて68%が、過去1年間に実際の人的接触を経験していた。
見るだけではない。かなりの人が、店頭で「人」と接触している。では、人との接触は、誰から始まっているのか。その接触はどう始まったのかを調べるため、実演販売を経験した600人を抽出し、直近の接触について聞いた。

最も多かったのは、「販売員から勧められ、試飲・試食・試用をした」46%。さらに、「商品を見ていたところ販売員から声をかけられ、その後に質問・相談した」22.5%、「販売員から勧められ、説明や実演を受けた」11%で、これらを合わせると79.5%が販売員側から始まった接触だった。
一方、「自分から販売員に声をかけ、質問・相談した」は14.33%にとどまる。
ここで、当初ニッポンモンダイが想定していた、「情報を調べた人が最後に販売員を求める」という構図とは、少し違う姿が見えてくる。Human Touchpointは、最後の確認だけを担っているのではない。そもそも商品と生活者を出会わせる入口になっている事実が、アンケートから浮かび上がった。
人に会う前、約6割はその商品に強い興味がなかった
販売員と接する前、その商品についてどのような状態だったのかも聞いた。

「購入したいと思い、ネット検索、SNS、口コミ、ECサイト、AIなどで調べていた」は15%、「興味があり購入したいと思っていたが、特に調べてはいなかった」は22.2%だった。つまり、もともと購入意向があった人は合わせて37.2%である。
一方、「商品は知っていたが、特に興味はなかった」30.8%、「商品自体を知らなかった」32%。合わせて62.8%にのぼる。販売員と接する前にはその商品への明確な購入意向を持っていなかったのだ。
これは重要な結果である。Human Touchpointは、すでにある購買意欲を最後に後押しするだけではない。デジタル→人との接触→決定という流れだけでなく、そもそも人との接点が商品との出会いをつくるケースもある。デジタルがリアルを消すのではなく、デジタルが情報を提供し、リアルが最後の意味を作る。まだ興味を持っていない人に、商品との接点そのものを作っている役割分担が始まっている可能性があるのだ。
人と接すると、「情報」が「自分のこと」に変わる
では、実際に販売員から勧められたり、説明・実演を受けたりすると、人は何が変わるのか。

最も多かったのは、「味や使い心地が分かった」34%。「商品の特徴が分かった」32.3%と続いて、「使い方・食べ方が分かった」21%、「自分に合う商品か判断しやすくなった」17.5%、「他の類似商品との違いが分かった」16%だった。さらに、「商品への興味が強くなった」13.8%、「疑問や不安が減った」10%、「購入したい気持ちが強くなった」9%、「商品・ブランドへの安心感・信頼感を持った」8.7%だった。
一方、「特に変化はなかった」は25%である。つまり、Human Touchpointがすべての人に同じ変化をもたらすわけではない。しかし、変化が起きた人にまず表れていたのは、「買いたくなった」よりも前の段階だ。
味が分かる。
使い心地が分かる。
商品の特徴が分かる。
自分に合うか判断できる。
人が渡しているのは、単なる追加情報ではない。商品についての情報を、「自分の場合はどうなのか」へ変換している。
AIは「調べる」、人は「確かめる」
では、AIやネットと店頭販売員には、どのような役割分担が求められているのか。商品を選ぶ時、AIやネット、店頭販売員のどちらに任せたいのか聞いた。

商品について「調べる」では、「AI・ネット」「ややAI・ネット」が計49%、「他の商品と比較する」でも、AI・ネット側が50.2%と、情報探索や比較では、AIやネットが明確に優勢だった。
一方、「商品の使い方や使用感を確かめる」では販売員側は43.3%、「疑問や不安を解消する」でも販売員側37.3%と、販売員が優勢。注目したいのは、「最後に購入を決める」では、AI・ネット側20%に対し、販売員側38.3%だったことだ。
つまり、AIと人が完全に分業されているわけではない。傾向としては、〈調べる・比較する→AIやネット〉と〈使う・確かめる・不安を解消する・最後に決める→人〉という違いが見える。だが、実査結果は、そこまで鮮明な二分ではない。それでも、情報収集から体験・判断へ進むにつれて、販売員を選ぶ割合が高まる傾向は確認できた。
インパクトホールディングスの寒河江清人社長は、この購買直前の接点を「ラストワンコンタクト」と表現する。AIやネットによって商品を知り、比較し、ある程度まで購入判断を進めた生活者に対して、最後の数秒、数十秒で実際に試してもらい、「自分に合う」「これなら使える」と実感してもらう。長い説明をすることではなく、短い接点の中で商品価値を体験へ変えることにも、販売現場のノウハウがあるという。
ただし、今回の調査で見えたHuman Touchpointの役割は、それだけではない。購買直前の「ラストワンコンタクト」になる場合もあれば、人が声をかけたことで初めて商品を知り、試してみる「ファーストコンタクト」になる場合もある。
人がいることで、「店」の価値まで変わる。売上だけでは価値を測れない
さらに、「販売員がいなかった場合でも、その商品を試したり、詳しく知ろうとしたりしたと思うか」と聞いた。

「そう思う」14.2%、「どちらかといえば、そう思う」35%を合わせた49.2%は、販売員がいなくても行動したと考えている。
一方、「どちらかといえば、そう思わない」23.8%、「そう思わない」15%を合わせて38.8%は、販売員がいなければ、その商品を試したり詳しく知ろうとしたりはしなかった可能性がある。Human Touchpointの価値は、売上だけでは測れない。人がいたから、商品との接点そのものが生まれた人がいる。それは、購入という結果より前に存在する価値である。
次に、メーカーの商品ではなく、小売店舗そのものについて聞いた。店頭販売員がいることで、店の価値はどう変わるのか?

最多は「自分に合う商品を見つけやすい」19.5%。「安心して買い物ができる」が19.2%と続いて、「店に活気がある」15%、「商品を選びやすい」13.3%、「店そのものへの信頼が高まる」8.3%だった。「特に価値を感じない」は17.5%だが、これは裏返せば、82.5%は販売員がいることに何らかの店の価値を感じている。つまり、人がいるから即座にロイヤルティーや価格プレミアムが生まれるわけではない。それでも、選びやすい、自分に合うものを見つけやすい、安心できる、店に活気が出るという売場そのものへの価値は存在している。メーカーが費用を負担して配置した販売員が、小売店の接客機能や売場体験まで補完しているのだ。
だとすれば、その価値を当日の販売個数だけで測るのは十分ではない。ここで生まれているのは、売上だけではなく、商品理解やブランドへの信頼、売場の賑わい、買い物のしやすさといった複数の価値である。 Human Touchpointの価値は、メーカーにとっての商品理解やブランド価値、小売にとっての売場価値、生活者にとっての理解・体験・納得まで含めて捉える必要があるのではないだろうか。
さらに、ここで生まれている価値は、ひとつの主体だけに帰属するものではない。
メーカーにとっては、商品の特徴を伝え、新しい顧客との接点をつくり、ブランドへの理解や信頼につなげる機会になる。
小売にとっては、接客を補い、売場に活気を生み、商品を選びやすくする。
生活者にとっては、違いが分かり、試すことができ、自分に合うかを考え、納得して選べる。
こうして見ると、Human Touchpointは、メーカー・小売・生活者の三者に価値を生む「三方よし」の接点ともいえるだろう。
業界最大手は、この変化をどう見ているのか
インパクトフィールドは、2026年3月に推奨販売の月間稼働数8,000件を突破した。同社も、EC時代になって専門スタッフとの対話や商品を直接試す体験価値が再評価されていると説明している。この市場の変化について、インパクトホールディングスの寒河江社長に聞いた。
「僕らの仕事って、販売員をひとり置いたから、その日の売上だけで必ず費用を回収できる、というものではないんです。それでもメーカーさんからの需要がある。それは、売上以外にも価値があるからだと思っています。
特に大きいのが、小売さんへの価値です。今、店舗は本当に人が足りない。接客したくても、商品をきちんと説明したくても、そこまで手が回らない。そこにメーカーさんの販売員が入ることで、商品説明だけではなく、声が出て、売場に人が集まって、店舗全体が賑わう。ある意味、売場活性のBPOでもあるんです。
メーカーさんにとっても、新商品は棚に置いただけでは違いが伝わりません。人が説明して、試してもらって、『なるほど、こういう商品なんだ』と理解してもらう。その一回の体験から新しいお客さまが生まれる。だから、当日の販売だけでは測れないと思っています。
コロナで、人が一度売場からいなくなりました。そこで逆に、人がいることの意味が見えるようになった部分もあると思います。AIもECも進むと思いますが、人にしかできないところは、むしろこれから価値が上がっていくんじゃないでしょうか」
どんな商品なら、最後は「人」に会いたい?
どんな商品なら、最後は「人に会いたい」と思うのかをひとつ選んでもらった。

最も多かったのは家電25.2%。次いで、自動車17.2%、食品12.8%となる。家電や自動車など、価格が高く、使い方や自分との適合を確かめたい商品で「人」が選ばれている。
一方、試食・試飲がHuman Touchpointの代表例である食品も12.8%で3位に入った。ただし、「最後は人に会いたい」と思う商品がない人も約2割いる。Human Touchpointは、すべての商品、すべての生活者に必要なものではない。だからこそ、「人なら何でも価値がある」のではなく、どの購買場面で、人が介在する意味が生まれるのかを見極める必要がある。
「人」ではなく、価値が生まれる接点を数える
ここまで見てくると、100年以上使われてきた「マネキン」という言葉だけでは、その価値を捉えきれていないのではないだろうか。今回の調査で見えてきたのは、販売員は商品を売るだけの存在ではないということだ。
人が声をかける。
商品を知る。
試してみる。
特徴が分かる。
自分に合うかを考える。
不安が減る。
最後の判断をする。
人を介して、発見・理解・体験・納得・信頼という一連の作用が生まれるリアル接点。それがHuman Touchpointである。人は、最後に答えを確認するためだけにいるのではない。時には、人がいたから商品を知る。人に勧められたから試す。その接点から初めて、「自分にとって、この商品は何なのか」が始まる。AIやネットが情報を大量に届けられる時代だからこそ、人が商品と生活者の間に入り、その情報を“自分のこと”へ変える。そこに、Human Touchpointが生む価値がある。
そして、この価値は試食販売だけに存在するものではない。試食・試飲、化粧品売場のビューティーアドバイザー、家電の実演販売、百貨店の催事、有人サンプリング、ポップアップストア、ショールーム、ブランドイベント、展示会。これまで別々の業界、別々の販促手法として扱われてきたものも、「人が介在することで商品の意味が変わる」という視点で見れば、同じ価値原理で束ねることができる。つまり、市場が突然生まれたわけではない。もともと存在していた人、売場、販促費、体験、接客といった支出や機能を、「Human Touchpoint」という接点を市場単位として捉え直しているのである。
「マネキン市場」という言葉は、誰が働くかで市場を切っている。だが、今回見えてきたのは、誰が働くかではなく、何の価値が生まれるかで市場を捉える視点だ。
人を何人派遣できるか。
一人一日いくらか。
一日に何個売ったか。
そうした人材や販売量だけではなく、どれだけ商品理解を生み、体験をつくり、納得や信頼につなげられるか。その接点自体を市場として見る。 そう考えると、「マネキン市場」という言葉だけでは、もう小さすぎるのだ。Human Touchpointとは、人を介して発見・理解・体験・納得・信頼が生まれるリアル接点である。 そして、そうした接点によって価値を生み出す市場を、ニッポンモンダイでは「ヒューマンタッチポイント市場」と定義する。
では、この「ヒューマンタッチポイント市場」は、どれほどの規模になるのだろうか。従来の「マネキン市場」には、日本全体をひとつに束ねた信頼性の高い統一市場統計がほとんど存在しない。それ自体、この領域が「職業」や「人材紹介」の集合として扱われ、人が生み出す価値をひとつの市場として測定されてこなかったことの表れともいえるだろう。
一方、GoogleとBCGの調査では、消費財・家電メーカーと小売が投じる販売促進費は約2.2兆円と推計されている。そこには販売員派遣のほか、キャンペーン・イベント、販促ツール、値引き、ポイント、リベートなど、複数の予算科目に分散してきた支出が含まれる。もちろん、この2.2兆円すべてがヒューマンタッチポイント市場ではない。
このうち、販売員派遣、有人イベント、有人サンプリング、店頭体験、ポップアップなど、人が介在すること自体が価値となる領域を仮に全体の15〜35%と置けば、約3300億〜7700億円だ。これは市場規模を確定する数字ではない。あくまで、これまで別々に扱われてきた支出を「Human Touchpoint」という価値で束ねた場合、どの程度の市場になり得るのかを考えるための初期仮説である。
こうした「市場の見方を変える」ことで新しい市場が見えてきた先行例が、リテールメディアだ。CARTA HOLDINGSとデジタルインファクトによれば、国内のリテールメディア広告市場は2025年に6066億円、2029年には1兆3174億円まで拡大すると予測されている。だが、店舗もPOSデータも売場も、以前から存在していた。新しい物理的な資産が突然生まれたわけではない。変わったのは、その「意味」である。
小売店舗を単なる「商品を販売する場所」ではなく、「購買データを持つ広告メディア」と捉え直したことで、営業部門の販促費だけでなく、広告・マーケティング予算まで投じられる市場になった。市場は、まったく新しいものが生まれなくても、「何として見るか」が変わることで姿を現す。リテールメディアが「売場」をメディアとして捉え直したのなら、「ヒューマンタッチポイント市場は」、「販売員」という人材を、生活者の理解・体験・納得・信頼を生む接点として捉え直す市場ともいえる。
時には、人がいたから商品を知る。人に勧められたから試す。その接点から初めて、「自分にとって、この商品は何なのか」が始まる。AIやネットが情報を大量に届けられる時代だからこそ、人が商品と生活者の間に入り、その情報を“自分のこと”へ変える。そこに、Human Touchpointという市場価値があるのかもしれない。
※本記事内にAIで生成したイメージ画像を使用しています。